星喰いのクロニカ

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軍法会議にて

何が正解で、何が間違いなのか。
現実は、それを教えてくれはしない。
困った時に助けてくれる魔法使いも、颯爽と守ってくれる王子様もいない。

ただ、突き刺さる冷たい視線に囲まれながら、私は立っている。

「エリオット・グレイオル少尉。意義の申し立てはあるか」

アウラヴェル王国軍本部の、軍事法廷で行われている軍法会議。
今まさに裁かれるために被告人席に立っている私に、厳しい声が投げ掛けられた。
褐色の肌の、威圧感のある男性――審問官が私を睨むように見ている。その緋色の瞳に怯みそうになるが、ぐっと堪えてまっすぐに見つめ返した。
喉がからからだ。心臓が早鐘を打っている。けれど、ここで退くわけにはいかない。

「ありません。私は、何一つ間違ったことをしたとは思っていません」

張り詰めた空気が、少し揺らいだように感じた。これは多分、困惑と呆れだろう。
審問官の眉間に寄っていた皺が、更に深くなった。瞳の色は、背筋が凍るほど冷たい色をしている。距離は離れているはずなのに、今にも嚙み殺されてしまいそうな恐ろしさがあった。

「……今一度、起訴内容を読み上げる。被告、エリオット・グレイオル少尉は、作戦完了後に隊の指揮系統を離脱し、上官の明示的命令を無視して戦地へ再侵入。これにより、部隊の行動に遅延を生じさせたものである。間違いはないか」
「間違いありません」
「それは、上官の命令に背き、戦地に戻るのが正しい行為だったと重ねて主張するものか?」
「はい」

私の声が、異様なほど大きく響いた。
軍事法廷は水を打ったように静まり返り、列席している上官たちは皆息を潜めている。
ちりちりとうなじが焼けるような感覚。緊張――ではない。これは、焦燥だ。恐怖だ。

この被告人席は、断頭台なのだ。
目の前の審問官の言葉一つで、私の首は飛ぶ。
士官学校で必死に訓練をした三年間も、やっとの思いで得た「少尉」の位も、下手をすれば命だってただではすまないかもしれない。
それでも――。

「ひとりの民の命を救った選択は、正しいものだったと主張します」

審問官の口角が歪んだ。元々いかめしい面立ちをしている顔が、更に険しくなる。
何を言っているんだこの小娘は。そう言わんばかりの苦々しい顔だ。その後、審問官が同席している将官たちに視線を送る。年季の入った面々が、浅く頷くのが見えた。
――判決だ。

「アウラヴェル王国軍 第四師団 第二分隊に所属する少尉、エリオット・グレイオル。本軍法会議は、貴官の行動に関して軍上層部により下された決裁に基づき、正式に処分を言い渡す。
審理の結果、貴官の行動は軍規第三章第六条『命令不服従』および第十二章第八条『戦術判断の逸脱』に該当すると認定された。
よって本会議は、以下の処分を執行する」

よく通る低い声が、私の犯した罪状を読み上げていく。
けれど、皆が一番注目するのは――この後読み上げられる、私の行く末についてだ。

「貴官は第四師団 第二分隊を外れ、第十三特務中隊へ配属。隊長、アストレイ大佐の指揮下に置くものとする」

一切の抑揚なく読み上げられた処分内容に、誰かが息をのんだ気配がした。そして、私が処遇を理解するより先に、周囲がどよめいた。
第十三特務中隊。存在を耳にしたことはあるが、他の分隊とは違い噂程度で、その詳細をまだ耳にしたことはない。
けれど、私は少しだけ安心していた。少なくとも、まだここに私の居場所はあるのだと思ったからだ。

「なお、本配属に関する指揮命令権の移譲は、軍上層部において既に承認済みである。以上で、本会議を閉廷とする」

木槌が振り下ろされ、甲高い音が石造りの法廷に響いた。
緊張した空気がにわかに緩み、同席していた上官たちが席を立って去って行く。
審問官たちが書類をまとめて去った後、ようやく足の力が抜けた。審問中は縫い付けられたように突っ立っていた足がへなへなと崩れて、木の欄に寄りかかってしまった。

「……つ、疲れた……」

あまり長居はできない。けど、足が言うことを聞いてくれるまで少しだけ施錠は待ってほしい。
縋るような気持ちで、なんとか下半身に力を込める。しっかり立ち上がろうと奮闘していると、不意に肩に手を置かれた。

「お疲れさん。昇進は絶望的になっちまったが、まあ頑張ってくれ。案外悪い所じゃないかもしれないぜ?」
「え……」

急いで振り返るが、その声の主は既に私に背を向けていた。
長身の男性だった。藍色の軍服に対して、淡い金の髪が映えているのが印象的だ。そして、マントではなくショートケープ型の外套を身に着けている。
その人は私が声を掛ける間もなく、ひらりと手を振って法廷の外に出て行ってしまった。
――昇進は絶望的。
がっくりと肩を落としたくなった。昇進のために軍に入ったわけではないけど、それでもやはり辛いものがある。
でも。私は間違っていなかった。ならば、この先に続くものは必ずあるはずだと思い直す。

第十三特務中隊。そこが新しい居場所。
私が新しく始まる場所だ。